茶室・露地

現存する藪内家の露地や建物は、二代月心軒が西本願寺の茶道師家に迎えられて門前町に屋敷を移した当時の様子を今に伝えています。 ここでは藪内家の露地及び茶室をご紹介いたします。

茶室・露地の図

1表門

藪内家は西本願寺の門前町の一角、西洞院通正面下ル西側にあります。西洞院通には明治の頃まで西洞院川が流れ、短い石橋を渡って出入りしていました。

通りに沿って建つこの表門や高塀は、古田織部の堀川屋敷から移したものと伝えられ、武家風な格式を漂わせています。

門の柱には太い皮付き丸太が使われ、黒壁には杢板の腰板を縦張りにしています。

2談古堂

六畳敷で長屋の一部を囲ったというような形をしています。左側の間仕切は朝鮮唐紙の太鼓張襖四本建てで、外は半間の廊下を隔てて雲脚に接しており、正面東寄りに煤竹を入れ、その下に掛物釘と花入掛の釘(中釘)を打っています。

壁面上部の煤竹が床の領域をあらわしており、その部分だけ腰張りを避けています。織部板を入れたいわゆる織部床をさらに簡略化した形式で、軽妙な床の手法であります。この座敷は、寄付もしくは袴付に使われます。明治まではこの部屋が稽古場としても使用されていました。

3雲脚

流祖藪中斎剣仲が利休から相伝の祝いとして贈られた茶室です。

二畳台目向切で、床の間は台目畳の前に三角形の地板を入れてそれを床の間とし、斜めの壁面に軸を掛けるようになっています。また、大きくくりぬいて塗りまわした壁が、点前座と客座の境をあたかも洞床の様に隔てています。茶道口の方立柱に竹を用いているのは、燕庵にも見られる織部の好みです。天井は客座、点前座を通してゆるい勾配の化粧屋根裏です。侘びの小座敷に、こういう異色な工夫を取り入れ、点前座をいかにも謙虚な姿にみせています。

利休からこの茶室と共に炉・風炉用道具一式と「雲脚」の瓢形の板額も贈られています。「雲脚」の板額は松材で瓢形の板に雲脚と彫られ、裏に「天正九年巳十月二日紹知へ 利休(花押)」と刻まれています。これは剣仲46歳の時にあたります。雲脚とは粗末な茶という意味もあって侘び茶の席に叶った命名ということが云えます。

4雲脚の露地

雲脚の談古堂(だんこどう)に接して建つ茶室で、南に面して躙口(にじりぐち)があります。明治の中頃、西洞院通りに路面電車が走るようになった時、屋敷の道路側全体の地盤を高くして建て直されたため、沓脱ぎ石や飛石が高くなっています。

躙口の右方の隅に刀掛を吊り、下に刀掛け石をおいています。二枚の障子の口は、貴人口でしたが、地盤が高くなったため、使えなくなってしまい、茶室の中から露地を見下ろす格好になりました。

雲脚のつくばいの手水鉢は八坂法観寺の礎石を利用したものです。左手には角形の火袋をもつ北野白太夫と命名された石燈籠が立てられ、簡素な趣を呈しています。このあたり初代藪中斎の生きた時代を偲ばせます。

5中露地

腰掛待合から燕庵の中露地となります。腰掛待合から眺めた先にひときわ大きい飛石があります。これか三ツ小袖石といい、もとは利休の屋敷にあったものを初代藪中斎が所望し、小袖三つと交換したとの伝えによりその名があります。

バランの下草が茂り、こんもりとした植え込みに隠れるように立つ石灯篭が足利義政遺愛と伝えられている燈籠「雪の朝(あした)」です。

「雪の朝」を右手に見ながら進んでいくと、段差の付いた珍しい石があります。これは「戸摺石(とずりいし)」・「戸下石(としたいし)」と言い、千少庵が利休の遺物として藪内家に譲ったものです。普段、亭主は上段で客を迎えますが、貴人を客として迎える時は、下の段にて迎え付けをするのが習いとなっています。

6腰掛待合

談古堂前の土間庇から真正面に見た潜りを入ると、腰掛があります。雲脚の露地からは塀に潜りが切られた姿に見えます。

その塀の内側に、腰掛が設けられて、腰掛は潜りの左右に分かれており、織部好の形式です。向かって右側が貴人席、左側が相伴席、その区別に応じて飛石の配置も工夫されています。

貴人席の腰掛には、うしろに衣桁が吊られ、円座と煙草盆が飾られ、左方には潜りからの視線を遮るべく垂れ茣座を掛けています。前に大きくやや高い踏石を据え、右手の袖壁に火灯窓を吹抜いて、潜りとの間の壁面には露地笠を掛けてあります。

7内露地

「猿戸」から内側が燕庵の内露地になります。中露地に入り、飛石を進むと、最初に目に入るのが、長さ約14尺(約5メートル)の延段です。この延段は全長に及ぶ御影石の切石と大中小の自然石を取り合わせた石畳で構成された独特の意匠で、織部の茶室と共に移されたものです。

少し深く掘りこんで据えられた水鉢は、文覚上人の五輪塔の水輪を利用したと伝えられ、実にゆたかな姿でうずくまっています。前石も大きい袖形の石で、これは貴人のために供に者が水をかけられるよう配慮されています。手水鉢後方の下草の茂みの中に六角の芋を掘り立てた織部燈籠が据えられています。この燈籠こそ織部燈籠の本歌です。

8燕庵

燕庵(えんなん)は藪内家を象徴する茶室です。茅葺屋根入母屋造りで、ひなびた姿です。屋根の妻には「燕庵」の額が掲げられています。この額は利休から託されたもので、初代藪中斎が織部から譲り受けた茶室に新たに掲げられ、村田珠光筆と伝えられています。

左方の屋根が低くふきおろされ、躙口の前に土間庇を作り刀掛け石を据えています。内部は三畳の客座を中心に、右に台目の点前座と左に一畳の相伴席を配した間取りです。

床に向かって左手に給支口と相伴席があります。相伴席は太鼓張襖で区切られ、その襖の鴨居上に板の欄間がはめられています。貴人を招いた時は襖を外し相伴席の畳をとって円座を敷き、敷居から内側を上段、相伴席を下段に見立てます。これも織部の創意によるものです。


床を挟んで右手正面の茶道口の方立(ほうたて)に竹を用いているもの、織部の好みです。点前座には中柱に皮付の赤松が使われ、点前座勝手付きは、上下二つの窓が少し中心をずらして配置され、「色紙窓」と呼ばれています。これもまた織部の工夫した窓です。

燕庵は茅葺屋根の草庵茶室でありながら、貴人を迎える形式をそなえているのです。藪内家は織部から譲られた茶席を厳しく守ることで、古儀の茶法を一途に伝えてきました。草庵様式の中に書院様式を取り入れた藪内家の茶法を、燕庵は語り続けており、流祖以来の姿を忠実に今日に伝えているのです。

9.緝熈堂露地

緝熈堂露地の南面に一つの露地があります。

この露地は須弥蔵の露地でもあり、燕庵および雲脚の露地に対する外露地の役目もしている露地です。

正面左側に見える中門は梅見門と呼ばれ、雲脚と燕庵の腰掛へ通じています。梅見門右側に続く垣根は「松明垣(たいまつがき)」と呼ばれ、藪内家独特のものです。この松明垣の向う側が、燕庵の露地です。

10緝熈堂

緝熈堂(しゅうきどう)は家元の主座敷です。元治の兵火で焼失後、西本願寺から移築されました。本願寺十七代門主法如上人の居間であった書院で、吉村孝敬の「墨竹の襖」に囚んで墨竹の間と呼ばれていました。移築の時の茶座敷に使えるように変えられました。丸太柱に丸太長押が特徴で、長押には二つ折り柏形の釘隠が打たれています。床柱も絞り丸太ですが、床框は真塗です。

畳の敷き方は点前座を中心にちょうど茶室の四畳半の間取りが構成されています。全体が十一畳半の広間の中で、四畳半の茶も出来るように工夫されているのです。

11須弥蔵

祖堂源霊閣に隣接しています。享保年間、寂如上人の要請に五代竹心が西本願寺の苑内に好んで建てたものです。元治の兵火で藪内家が焼失し、家元を再興する際、西本願寺から下賜をうけ移築され現在に至っています。

内外とも壁は紅殻(べんがら)色で、外部前面の柱に「前養竹愛清節 軒外望松脱俗機」と竹心の筆で刻まれています。内部は平三畳、向切りの炉、点前座の背後の壁面が斜めになって、その斜行する壁に洞庫が付くという一風変わった構えです。

床は下座の中央にあり、奥行の浅い踏込床とし、入隅を塗廻し、落掛は省略して壁を曲線にしています。寂如上人の考えも加味されているのかも知れませんが、茶室の約束を超越し、形にとらわれず、文人趣味を大胆に茶に反映させたところは、竹心らしい好みのように思えます。

12学市軒

緝凞堂の床と点前座の東側に「学市軒(がくしけん)」と呼ぶ六畳の茶室があります。現在はここが日常の稽古場に当てられています。炉は四畳半切、点前座の勝手付きには緝凞堂と同じ手法の窓があります。

天井は一面の平天井で、茶道口は太鼓張襖二本建て、この点前座の反対側に床がありますが、奥行をもたない壁床で、壁付きの柱(赤松)が床柱に見立てられ花釘を打っています。床を組み入れて、かつ完全に六畳の広さに使いうる茶室として工夫されています。右側の腰障子の入口の外には、この席の露地がつくられています。

全体に日常的で簡素な構成の座敷で、寄付や応接間として、また茶室にも使えるという妙味のある座敷です。

13源霊閣

茶室須弥蔵の北側に隣接して藪内家の祖堂「源霊閣(げんれいかく)」があります。須彌蔵と同様に内外とも紅殻(べんがら)色の壁です。内部中央上段には盤珪(ばんけい)和尚遺愛の観音像が祀られ、下段には栄西禅師入宗の際持ち帰ったと伝えられる達磨大師像が祀られています。その左右には利休像・剣仲像が安置されており、利休像の頭巾には利休の遺髪が収められています。

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